Wednesday, 17 October 2012

Le Voyage dans la Lune

世界で最初の職業映画監督ジョルジュ・メリエス(1861-1938)。
彼の人生とその作品に焦点をあてたドキュメンタリー映画『メリエスの素晴らしき映画魔術』と
奇跡的にバルセロナで発見された彼の代表作『月世界旅行』のカラーフィルム版が
イメージフォーラムで同時上映されたのはこの夏のこと。

彼のアイディアと遊び心に、今観ても全く古さを感じないその技術に、
そして少し悲しい彼の晩年に、
非常に驚かされてただただ夢中になった夜の映画の時間だった。


自らの劇場をもち、大変な成功をおさめていたパリのマジシャン、ジョルジュ・メリエス。
34歳のときに観たリュミエール兄弟による映画の公開に大変な感銘を受け
自らも映画製作の道を歩むこととなります。

できたてほやほやだった当時の映画=シネマトグラフというものは
物ごとを記録するだけで「動く写真」と表現されるに過ぎないものだったのですが
メリエスは撮影中のカメラ故障によって偶然発見された手法を使って世界初のSFX技術を考案、
それに元マジシャンらしい、わたしたちが今観てもわくわくしてしまうような仕掛けと
観客を笑わせてくれる愉快なストーリーを組み合わせて、初めての娯楽映画を作ったのでした。

そんな彼の最も有名な作品が1902年公開のLe Voyage dans la Lune(月世界旅行)。
フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』と
イギリスの著作家H.G.ウェルズの『月世界最初の人間』の2作品を基に製作された作品です。

世界で初めて月へと旅行することになった6人の天文学者たちが大きな砲弾に乗って月に着陸。
探索の途中奇妙な生物に襲われて生け捕りにされ、月の王に差し出されてしまう・・・。

月の顔にぶすっと刺さる大砲、にょきにょき生える巨大キノコ、パフっと煙になって消える地球外生物。
宇宙旅行だなんて夢のまた夢であった1902年---日本ならば明治35年---に、
これほどキッチュかつ奇想天外な月を舞台にした映画があったなんて!!!
無声映画であるこの作品にフランスのアーティストAIRが音楽を付けていたのもよかったです。

月へ行くことが不可能でなくなった21世紀を生きているわたしでさえ
この世界観にはわくわくさせられっぱなしだったのだから、
当時の人たちがどれだけこの作品に熱狂したのかを想像するのはそんなに難しいことではありません。
上映時間約15分30シーンから構成される、空前絶後の大作であった『月世界旅行』は
もちろん世界中で大ヒットしたのでした。

しかし。
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす」
とはよく言ったもので。(平家物語☆)

脚本から舞台美術まで映画制作のありとあらゆる役割をワンマンでこなしていたメリエスは
その後訪れた新しい時代の波についてゆくことなく、今までと同じ様な作品を作り続けたため
観客からすっかり飽きられてしまい、いつの間にやら多額の負債を抱えて破産。
失意のどん底に落ちた『アーティスト』のジョージ・ヴァレンティンさながらに
過去に製作した映画フィルムの殆どを燃やしてしまうのでした。
それからはパリのモンパルナスにあるおもちゃ屋さんで売り子をしながら生活していたそうな・・・。

こんなに才能に溢れていて楽しいことが大好きだった人。
人々から世間から忘れ去られてしまったジョルジュおじいちゃん。
彼の静かな晩年が、ささやかながら幸せなものであったことを願ってやみません。